資料解説COMMENTARY
子規と門人らのユニークな俳句修練を物語る郵便回覧句稿「十句集」
「十句集」とは、明治29年に正岡子規が考案した郵便回覧によるユニークな句会の記録です。参加者は、事前に決められた題で十句詠み(一題十句)、幹事が清書してまとめた句稿「十句集」をグループ内で郵便回覧して、優れた句を互いに選び、得点を競いました。幹事が得点を集計し、最高得点を得た者が句稿を所持できる取り決めで、今回公開する「十句集」冊子のほとんどは子規が最高得点を得て子規が所持していたものです。
これら「十句集」の回覧と選句にあたっては、受け取った者は必ず24時間以内に選句して次の参加者に発送するルールがありました。「十句集」が行われた明治30年代は、郵便制度が急速に発達した時代であり、子規は安価で迅速な配達が可能だった郵便制度を活用し、郵便回覧により月1回のペースで非対面の句会を催す俳句修練法を考案したものと考えられます。
今回公開する「十句集」11点には、『子規全集』未収録の新資料が含まれます。これまで注目されてこなかった子規と門人たちの郵便回覧句会の実態を調査研究でき、子規研究の進展に大きく寄与できる極めて貴重な資料群です。
「十句集」による郵便回覧句会のしくみ
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①投句受付
参加者は、期日までに決められた題の句を10句作り、幹事に送付。
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②清記
幹事は、参加者の句を無記名の状態で季節ごとに分類、清書して冊子(「十句集」)にまとめ、参加者に郵便で回覧。
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③回覧(1回目)・選句
各参加者は、「十句集」を順に郵便で回覧し、それぞれ総句数の1割の句を選ぶ。「十句集」は最終的に幹事に戻される。
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④集計・記入
幹事は、参加者の選んだ句の得点を集計、「十句集」の句稿に記した俳句に作者と選者の名前を記入し、再び参加者に回覧。
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⑤回覧(2回目)・結果報告
各参加者は、回覧される「十句集」を見て結果を確認、最高得点者が最後に閲覧し、「十句集」原本をそのまま所持。

「十句集」の内容構成
「十句集」各冊子の内容構成は、下記のとおりです。
- ①句会稿の凡例・規則・注意事項
- ②次回の課題、次回の幹事の告知
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③句稿*幹事が清記した句稿。俳句は新年から春夏秋冬の順に季節ごとに分類されている。回覧(1回目)終了後、幹事が俳句の作者と選者を記入。
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④結果報告・傾向の分析*回覧(1回目)終了後、幹事が各参加者の得点、高得点を得た俳句、最高得点者(本巻所有者)など結果の分析報告をまとめたもの。
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⑤得点表*回覧(1回目)終了後、幹事が点数を集計して作成。
- ⑥参加者の住所一覧
毎回決まった様式にならって、郵便回覧のための冊子が作成されました。
※①②③⑥は回覧(1回目)前からある部分、④⑤は回覧(1回目)後に追加された部分。